ところが,地学で扱う自然現象の中には基本方程式が立てられない,
もしくはあっても統計的にしか現象を説明をできないものがたくさんあります(もし私の認識が間違っていたらお教え下さい).
例えば私が扱っているものでも地形の侵食,火砕流の流路,地震の碁石モデル,砂山モデル等です.
これらの特徴はその数値シミュレーションの過程で乱数を用いることです.例えば侵食のシミュレーションでは雨を陸地に降らすのですが,その雨の降る場所は当然あらかじめ予想できません.従ってランダムに陸地を格子に切り分けたところへ雨を乱数で格子を選択して降らせていきます.当然,乱数の種を変更すると同じ初期地形から計算を始めても異なった地形ができます.これらのモデルは従ってある現象を説明しているのですが,どこまでいっても完全に自然現象を再現できないということになります.
地震の発生モデルも各種ありますが,常にこれと同じような乱数処理が入るものが大部分です.
例えば地層の堆積モデルもそうではないかと想像します(詳しくないのでどなたかお教え頂ければ幸いです)
つまり自然を模倣しようとするとき,完全にそれが基本方程式で決定論的に予想できるかどうかというと,地学現象にはそうでないものが非常に多いということです.
逆にそうするとモデルを作るとき上記のような単純化や簡素化が必要となります.そのモデルは格子モデルに代表されますが,結構教材として生徒にやらせると喜んでくれます.私は大塚道男先生の開発された「碁石モデル」を教材として選び,生徒に実習としてやらせた上で,地震予知の難しさと関連させて授業をしたのですが,生徒の反応は上々でした.少し長くなりましたので一旦ここで切ります.
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<その2>
複雑系の続きです.物理・化学はもちろん自然科学の基礎なのですが,前回述べたこととも関連して,基礎であるが故の新鮮味のなさがつきまといます.例えばオームの法則を実験しても答えは実は教科書に載っているわけです.あるいは極端な場合,塾で習ってあらかじめ知っていたりします.(何もこの2つの教科を教えなくて良いと言っているのではありません.現象を相手にする地学,生物との違いを際立たせたいからこの例をあげます) そうすると実験は如何に既存の法則をうまく再現するかという部分にどうしても技術が行ってしまいます.重力加速度であればgはやはり9.8に近い値がでないと困るわけです.実際はなかなか出ませんが,---
それに対して,例えば地形の成り立ちを考えるとき,確かに扇状地や,河岸段丘といった典型的な地形はあります.また岩石の分類をするとき,花崗岩や安山岩といった岩石の典型も図鑑や標本にはあります.しかし,それを自分が採集した,あるいは地図上で調べたものと較べるときの自由度の幅は物理,化学の方法論と次元が違うように思います.そしてそれこそが,地学の自由さであり,新鮮さであり,売りであるように思えます.生徒は問題の答えをあらかじめ教科書から探しにくい.あるいは探すためにはあるスキルを要求される.これは生徒にとってある意味新鮮であるように思われます.
しかし,その新鮮さをすべての生徒に共感させれるかといわれると,残念ながらあまり自信はありません.しかし,3割の生徒であれば今でも私は自信があります.私は地学のこの面白さをできれば多くの生徒に伝えまた,その過程で自分でも再発見していきたいと思ってます.
ちなみに私の住んでいる橋本市で昨秋,始めて開かれた科学の祭典で拙作の断層実験を行ったところ,小学生の一部(!)にはいたく人気でした(もちろんこの種の催しで,いうもそうであるように,本当は一番来てほしい中学生高校生がほとんど来ないというのが残念なのですが)
その中で,お母さんの手を引いて来てくれた女子の小学生(3年生位かな)はお母さんが理科に興味を持たせようと他のブースで同時にあった物理化学関連の催しものに一生懸命つれていっても少しも興味を示さず,私の断層実験だけなぜか興味を持ったとお母さんが苦笑されていたのが印象的でした.
とりあえず第2報です.
なお,断層実験は下記のアドレスをご覧下さい.
http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/ssj/naifuru/vol13/v13p7.html