2019年春,徳島室戸巡検

2019年03月 室戸岬のジオパーク関連のサイトに巡検に行ってきました.附高卒業生のS君,大教大学生の3人(地学同好会のY君,T君,ブラジルから の留学生Iさん)とのコラボです.徳島まで高速バス.徳島からレンタカーで1泊のとても楽しい巡検でした.Face Bookに上げたものを,再度まとめました.それでは詳細をどうぞ.まずは昨日の分を先にアップします.この日のみものは,宍喰町の化石漣痕,室戸岬灯台 直下の日本では最も見事な層状はんれい岩体です.論文は下記
https://www.jstage.jst.go.jp/…/Supp…/112_Supplement_S55/_pdf

2日間の旅程に分けて紹介します.

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JR徳島駅前までバスで大阪から3時間とちょっと.11時すぎにつきました.ここで予約したレンタカーの迎えの車を待ちました.ごらんの阿波踊りの像がある郵便ポストの前で待ってくれといわれたところです. 室戸岬に行く途中で腹ごしらえ.T君のたっての希望で徳島ラーメン東大という店によりました.ごらんのは醤油とんこつの小(並)ですが結構なボリューム.ちなみに生卵はサービスでついています.なかなか美味しかった.
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喰町は徳島と高知の境界近く.峠を越えると高知の甲浦漁港です.その県境を越える国道の旧道ぞいにこの天然記念物の化石漣痕があります.リップルマークという地質構造ですが,簡単に立ち寄れるものとしては私は日本ではもっとも見事なものだと思っています. しかし天然記念物指定から時を経て,石版はごらんの通り
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さらに光線の角度もあるのですが,やや露頭としてはくたびれてきた感じがします.しかし初めて見る学生さんたちはとても感激していました.リップルマークなので地層の表面(上面)を見ていることになります.地層の年代は始新世(4000万年前)とされます. ちょっと罪作りですが,私が30年前くらいに訪れたときの写真です.スライドフィルムから起こしたものです.このときはまだ露頭も新鮮でした.

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拡大写真です.木のハンマーがいかにも時の流れを感じさせます.さてこの模様を作った水流の流れはどの方向でしょうか?答えは次に書きます. この説明板はかなり新しいようです.水流方向の説明もありま.さきほどの答えは左下から右上でした.ゆるい傾斜のほうが流れの上手方向となります.
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左の方から層理面を見ると陰影がついて凹凸がはっきりわかる.下の層にも同様のリップルが見える.
さてこれはさきほどの場所の横の地層の続きです.見事な砂泥五層が続いています.
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学生さんが早速見事な荷重痕(ロードキャスト)を地層の裏側に見つけました. これも同じ場所の生痕化石.
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道路を高知県側に少し走ったところで同じような地層をみつけました.こちらは日が当たって綺麗に見えます. ここでは他にも小規模ですがリップルマークも見つかり学生さんはとても喜んでいました.
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T君がスケールで示しているのは各種リップルマークです.ここは小規模ですが,様々な種類のものが見れました.
さきほどの地層の横には見事な海岸風景が見えています.
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さらに高知県側を南に下って,夫婦岩という名前の奇岩が海に突き出ているところです. ここは足元の岩石の種類は薄いピンク色をした砂岩,それも石英分の多いアルコース砂岩だと思われるが関連資料には記載が見つからない.
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さて本日の最後の目的は室戸岬灯台下のこれ岩体.これが地質学者には有名な「室戸岬層状はんれい岩体」.かつて地質学会の巡検コースにも選ばれました.巡検ポイントの解説を含む論文は下記.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/112/Supplement/112_Supplement_S55/_pdf
海岸から陸側をみたところ.山のてっぺんに室戸岬灯台が隠れています. 層状構造をしめす「はんれい岩体」が約200mに渡って露出していますが,巨大な転石に覆われているので,なかなか構造が把握しにくい.ここは層状岩体の かなり下の部分(重力で最初に結晶が沈降を始めた部分)です.画面向かって右側が層状岩体の下部,左側が上部となります.かなり直立に近い構造です.これ は回りの堆積岩層と調和的で,地層に平行に入ったシルの形になっています.
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層状岩体が接触している砂岩層です.右に見えるのが接触部だったか.明日の写真で接触部をご覧ください

こちらは,中央部に少し移動してはんれい岩がやや粗粒となった部分.白く見えるのが斜長石.黒いのが普通輝石とかんらん石です.
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Y君がスケールになってくれました.貫入岩体のやや中央近くで層状の長石の多い部分(斜長岩)が脈になっているところです.この脈と平行に層状に貫入しています.岩体自体はその後の地殻変動で立っていることになります.このあたりのはんれい岩はかんらん石の組成が低部についで多く,それは通常のマグマ内部の結晶の沈積では説明できないと論文にあります.
拡大部分.明日の写真でお見せするペグマタイト脈とはまた違うものです.
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さて室戸岬の海岸段丘の上へ車で上がってきました.かつて台風銀座で名前を馳せた室戸岬測候所も,今は室戸岬特別地域気象観測所と名前が変わり,現在は無人化されているようです.いずこも同じリストラの波. さらに奥に行った展望台にあった地図.実は旅行の前日に市役所に電話して1/2500の地図の確保をお願いしていたのですが,市役所に出向いたときに,担当者が用意していたのは1/10000の統合図で,こちらが必要な元の地図をコピーしてもらうのに,とても時間がかかり貴重な露頭見学の時間をロスしました.ちなみに地図は1枚400円で,コンビニでコピーして翌日の巡検に備えました
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展望台という場所の駐車場に車を止めるとなぜかおおぜいの猫がやってきました.あとでわかったのですが,捨て猫がこの場所で多く捨てられたので,世話をする方がおられました. 展望台から南を望む写真.太平洋が270度くらいの範囲に見れます.例によって鍵がどんどん吊るされています.
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北の半島の方を見ると傾動地塊.つまり西側(左)に少し傾斜した段丘面が見れます.明日は朝から左の一番奥に見える岬(行当岬)のジオサイトを見る予定です. 参考に室戸岬のはんれい岩です.30年ほど前に教員になった頃に地学の 教師の巡検で訪れた際のサンプルです.灰色は斜長石で自形のものがある.色のついたもののうち,どぎつい色で自形気味なのがかんらん石.ややおとなしい色 で他形気味なのが普通輝石です.かんらん石の方がへき開があまりない方です.横幅13mmの視野.

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さてこの日の宿はごらんの昭和の香りが満載の旅館です.1泊朝食付きで4500円と格安でした.四国に多いお遍路さんが泊まる宿のようです.
部屋は結構広いのですが,ごらんのように昭和の調度が満載です.しかしTVは大きく,エアコンも効いて無料のWifiも使えました.コスパは高い.

さて,2日目の旅程です.宿を朝出発してまず,ジオパークの目玉の1つである,行当岬,黒耳海岸のタービダイトの地層を見ます.その後室戸岬に戻って,昨日の「はんれい岩体」の論文に沿ってのポイント再確認.さらに北上してジオパークセンター,廃校水族館を尋ねます.

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旅館の朝食.値段の割にコスパは高い.とても簡略化されているがカンファタブルなサービスはついてくる.
朝から,ジオサイトに出陣.行当岬とかいて「ぎょうど」岬と読みます.ここは駐車場,遊歩道や説明板が整備されていて,間近に地層を観察できます.さすがは世界ジオパークだけはあります.
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とても詳しく説明されているので一般の人でも見つけれるかな? まずは海底地すべりの証拠のスランピングです.
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地層全体が細かく褶曲しています.未固結の堆積物が海底で滑って変形したものと考えられています.
手前と向こう側にも褶曲がみれます.
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遊歩道の終点から降りてあたりの地層を観察します. ぱっと見渡しただけで,リップルマークがわかりますね.
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リップルマーク(漣痕)です.昨日見た宍喰町のよりは規模が小さいですが,こちらの方が凹凸はみやすいですね. 中央のレンズキャップの地層にリップルの断面が見えます.
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1枚の砂岩の層の中だけが褶曲していて,これはコンボリューションと呼ばれます.スランピングと同じでき方ですが,層が1枚だけ滑ったのだと思われます.
さきほどの続きです.さらに砂岩を挟む黒い泥岩は層理(地層に平行な方向)と少し斜交する細かいすじが見えます.スレート劈開と呼ばれるものだと思います.
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Y君がまた生痕化石を見つけました.
説明板によると2枚貝が歩いたあとだと書かれているのですが.
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荷重痕(ロードキャスト),乱泥流で重なった砂の層が自分の重みで,下の未固結の泥岩層にめりこんだ構造だと説明されます.生痕と同じく地層(砂岩層)の裏側にできます.地層の上下判定にも使われます.
留学生Iさん(日系3世なので日本人の名前です)の足元に地層を直角に貫く岩脈がありますが,火成岩ではなく砂岩なのです.sand dykeと呼ばれて堆積物の液状化が原因で作られるとか.古い巨大地震の痕跡だと説明板にあるのですが.さて.
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場所を移して,車で数分走ったところにある,黒耳海岸という場所です.ここは遊歩道や駐車場はありません.道路岩に停めて,海岸に出ました.ここはメランジェという地層がみられます.スランピングよりさらに激しく地層が撹拌されています.砂岩がくしゃくしゃになっています.これも「付加体」(沈み込むプレートにより海溝の陸側に発達するぶ厚い地層)で典型的に見られる構造です.ときには沈み込む海洋プレートの上面が剥ぎ取られ,ごらんのような砂泥の地層に挟まれることもありますが,ここでは見られませんでした. 地層がぐちゃぐちゃになっているのがよくわかります.小さな穴が空いているのは,古地磁気測定のコアサンプルを抜いたあとだと思われます.地層に記録された弱い磁気から昔,この地層がどのあたりの緯度で作られたかを調べるためです.
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どこが層理面かわからない状態です.
これもそうです.
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さて室戸岬に戻ってきました 有名な中岡慎太郎像のところから海岸に降ります.
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やっと周囲の砂岩層と貫入岩体の境界を見つけました.右の白いのが砂岩で,左の黒いのが「はんれい岩」とその急冷部の玄武岩です.こちらはマニアックなのでジオパークの説明にもあまり詳しくは書かれていません.ここから左の方に150mに渡って「はんれい岩」が続きます.日本でこのような層状貫入岩体の断面の全貌が見える場所は極めて少ない.留学生のIさんは「What'Up」というskypeみたいなアプリでブラジルの指導教官にこの露頭の様子を説明していました.さすがに今は地球の裏側から指導教官に露頭の様子を見せて説明してもらえる時代となりました.
砂岩との接触部に近い部分は急冷されて,玄武岩ないし粗粒玄武岩の組織になっている.S君がルーペで鉱物を確かめているところ.ここのはんれい岩はかんらん石がルーペで緑褐色半透明に見えます.接触部(下部境界)に近い部分にはかんらん石が濃集しているとされる.
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海岸には黒白の美しいはんれい岩が散らばっています.ここのはんれい岩は生駒山や信貴山などで見られる「はんれい岩」が黒いだけで鉱物の境界がはっきりしないのに大して,白い斜長石と黒くみえる輝石,かんらん石の境界がはっきりして美しいものです. はんれい岩体の中央部には白い脈がたくさん入っています.これはマグマが冷えて固まるときに揮発成分や水分が濃集して巨大な鉱物になった部分で「ペグマタイト」と呼ばれます.これも日本では結構珍しい.ブラジルの件の指導教官も日本のような新しい時代(1400万年?)の貫入岩を見るのは珍しい(ブラジルは古い岩が多い)のでとても興味ふかいと言っていたそうです.会話の内容はポルトガル語なのでちんぷんかんぷんでしたが.
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ペグマタイト部分の転石です.白が斜長石,黒が普通輝石です.わかりやすい.このマグマの層状構造は地学の教科書に「マグマの結晶分化作用」として記述されています.この露頭はその記述が実際の野外で確かめられる場所として重要なのです. さて降りだした雨のなかをかなり西北方に歩いて,層状貫入岩体の上部の境界を探したのですが,短い時間ではみつかりませんでした.この場所の境界は論文にもあまり詳しく書かれていません.ここから東部の海岸でその接触部が見れるそうですが時間の関係でいけませんでした.写真ではすでに砂岩が露岩として出ています.どこかこの右方に境界が埋もれているはずなのですが.

ここで室戸岬関係は一端終了.次はジオパークセンターと廃校水族館,その他です.
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中学校の廃校を改築して作られたという,ジオパークセンター.さすがに世界ジオパークなので気合が入っています 内部の様子.ほかに岩石なども展示されています.博物館とちがって無造作に石が置かれているのも面白い.
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世界のプレートのジグソーパズル.
プレート沈み込みの付加体形成モデル.動きます!
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さて最後に立ち寄ったのが,昨年閉校した小学校の建物をそのまま活かした「廃校水族館」です.ここは入場料が600円とられるのですが,なかなか興味深く600円の価値は充分ありそうです.ごらんのプールには地元の漁師が取った魚が泳いでいます. 内部の様子,長い廊下が水族館の水槽に.魚はすべて地元産.
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教室を改良して大きな水槽が置かれている.中は全部地元漁協が取った魚が入っている.
南国らしくサンゴに棲む魚も多数.
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25mプールに飼われているウミガメやエイ,さらにコサバ,コアジ,などが泳いでいます.釣り好きなY君,T君はここを釣り堀にすればよいと言ってましたが. イセエビの水槽.
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コウイカの水槽.
うつぼも.
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図書館や,体育の道具なども展示.
足踏みオルガンは他の学校からの寄贈.
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廊下の表示.
さらに学習の心得など.
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帰りに少し遅い朝食.甲浦の津波避難タワーが見えた後すぐにあった道の駅のフードコートみたいなところで数あるメニューの中から「海鮮丼+ミニうどん」のセット.それに道の駅で打っているキハダマグロの柵(350円と格安)をフードコートの人に100円の手数料で切ってもらってごらんのようなお刺身に変身. 学生さんたちは,手作りピザとかタイの刺し身(280円)とかを注文しました.少しずつみんなで分けて,満腹になりました!
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甲浦の津波避難タワー.海岸沿いのどの町にもこのようなタワーが建てられていました.
さて17時ころに徳島駅前に帰ってきました.雨が降り続いていますが,何とか巡検の時間までは天候が持ってよかったです.とても楽しい巡検になりました.驚いたのは借りたアクセラハイブリッドは250kmを走ってガソリン消費はわずか12Lあまり.1600円ほどでした.恐るべしハイブリッド.運転を交代で担当してくれた卒業生の北大生S君,狭い車内で我慢して参加していただいた大教大の3名の学生,院生にもお礼を申し上げます.



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