自作切断機分解修理レシピ  2020.05/08

※ このページの分解と修理には機械や工具に関するやや専門的な知識と経験が必要です.また製造企業の想定の範囲外の改造にあたります.当然ながら何かあっても筆者は何ら責任を負えないことを了承願います.

§.不都合の実態
ある程度切断機を使ったあとに,ある日,突然モータースイッチを入れてもうなり音だけでカッターが回らなくなる.その時はすぐにスイッチを切ってかならず分解・修理してください.

原因:モーター軸を内部で支えるベアリングが侵入する水で錆を生じ,軸が固着してしまう現象.

(この不具合には再現性があります.今まで筆者と同型の切断機を自作された知り合いのM君も製作後結構はやく遭遇しました.これまでの製作例2件ともに生じたかなり再現性が高い不都合です.
筆者の場合は数百枚の薄片を製作後にこの不都合に遭遇しました


解決法:上記ベアリングをステンレス製に交換.あと防水のための工夫を考える.ただこれも根本的な解決にはならない.ステンレス製ベアリングでも再度不都合が生じる可能性がある.
モーター軸と直結の切断機には構造上固有の欠陥のように思える.

それでは,筆者の修理例(2020年5月)を紹介します.工具と機械に関する知識があればそれほど困難な作業ではありません.
最初に不都合に遭遇した,知り合いのM君は筆者より先にご自分で解決されました.筆者の作業はM君のFaceBook上の修理作業の詳細を参考にさせてもらいました.
またM君から修理に関する数多くの貴重な示唆をいただきました.感謝します.

そのほか,ベアリングについては少し知識が必要です.ベアリングは少し固くはまるように作ってあります.この固さのことを「はめあい」といいます.詳しくは下記を参考に.
https://www.monotaro.com/s/pages/productinfo/bearing_hameai/

また本記事のように通常のはめ込みのほかに,ベアリングを熱く熱して膨張させて,はめる「熱ばめ」などの方法もあります.詳しくは
https://www.ntn.co.jp/japan/products/catalog/pdf/9103.pdf

ベアリング専用の脱着工具については(本記事ていどの修理ではとりあえず不要です),
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_design/md05/g0026.html


§.分解と修理手順(必ず自己責任でお願いします.生じた不都合に当方は責任を負いません

1)まず,カッターの刃やアーバー,水槽をはずす.
2)次にモーター部分のガワを分解する.
3)ベアリングの固着を確認する.
4)固着したベアリングをはずし,ステンレス製に交換する.
5)同時に軸回りの防水を強化する,

必要なもの(Amazon,モノタロウなどで購入可).
1.ベアリングを外すのと,再度とりつけるための工具.できれば専用のベアリングプーラーなどが望ましいが,手元の工具類でも何とかなる.
2.替えのベアリング(外形35mm,内径15mm,幅11mm,ステンレス製,接着ゴムシール付き)
 →モノタロウなどで購入可(500円前後).
https://www.monotaro.com/p/2454/0477/
3.金属用接着剤,アルミ薄板(0.5mm)
4.グリス,シリコンスプレーなど

次に写真で手順を紹介する.

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固着が起こる前の週にさる石材屋さんで切断機のデモを行ったときの様子.このときは全く問題なく動いていた.
さらにそのあくる日,いただいた石材のサンプルを切っているところ.この時も全く問題なく動いていた.ところがその翌週に切ったサンプルの片面を磨いてスライドガラスに貼り付けたものを再度,切断しようとして切断機のスイッチを入れたところ動かなくなっていた.
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とりあえずグラインダーのモーターを分解したところ.次に順を追って説明する.
まず水槽のフタ(切断機のステージ)をはずし,カッターの刃もはずす.
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刃のアーバーがアルミ製でも鉄の軸に錆び付いていて,はずすのに手間がかかる.まずシリコンスプレーを吹いて,少しなじませてから,太いドライバーなどで少しずつこじて外す. 動き出したら,プライヤーなどで挟み,左にあるグラインダー砥石を持って回転させて外す.
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錆が来ているモーター軸と対応するアクリル水槽の側に付着した研磨石 粉.モーター軸とアクリル水槽の孔の径はほんの1mmあるかないかの隙間であるにもかかわらず,かなりの量の水と研磨粉がモーター側に漏れてきているのが わかる.モーター側の入り口には特になにも障害がなく,漏れた水は内部に入れることがわかる.その入り口部分にベアリングが内蔵されている.
モーターカバーを止めている4本のプラスネジを外す.長いネジで反対側まで貫通している.反対側のナットを押さえながらはずす.
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4本のネジを外したら,次に切断機側のテーパーになった部分のカバーを外す.一度,プラスティックハンマーでテーパー部を軸と直角方向に叩くと,カバーと本体の隙間が見えるようになるので,マイナスドライバーで隙間をこじて少しずつ拡大する. プラスティックハンマーでカバーを軸と直角方向に叩いたり,マイナスドライバーをさし込んだりして,徐々に隙間を開いていくと,写真のようにカバーがすっぽり外れる.
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しかし,反対側の砥石を外しておく必要があることに気付き,次にこちらを外す.丸い砥石を抑えて慎重に外すが,実はこ反対側のネジは逆ネジ(左ネジともいう)になっていることに気づいた.外す方向に要注意の部分.当然組み上げ時も注意すること! そして先程のテーパー部をもう一度,はずすと回転子とともにモーター軸がすっぽりと抜ける.今見えているベアリングはさきほど外した片方の砥石に近い壊れていない方のベアリング.こわれた方は左手で持っているテーパー部の底に入っている.
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さらにこのカバーから回転子ごと軸を抜き取る.これで,ベアリングとカバーが外れる.
カバーが外れたところ.中央の凹んだところにベアリングが収まる構造. ここではそれほど固く「はめあい」は必要ない.なお,軸を平行方向に押さえるためのリング状の黒いバネが,このベアリングのハウジングの片側のみに入って いるので失わないようにする(写真を撮り忘れた).筆者は最初切断機と反対側に入っていたこのバネを組み上げのときに間違えて,切断機側に嵌めたが,今の ところあまり問題は生じていない.
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とり出された軸と回転子.さらに2箇所のベアリング.固着しているのは右側のベアリング.これを次に外すことにする.左のベアリングはそのまま.当然ながらこれらの分解をすれば,何があっても自己責任でメーカーの補償などは受けれないことに注意 回転子が入っていたコイルの部分.よく見ると下の開口部に切断時に削られた石の粉が付着している.水がここまで侵入していたことがわかる.しかしコイル自体は中空に浮くように置かれているので,通常では漏電の心配は少ない.だたし水が基部にまで入るとスイッチや回路部分があるので漏電する可能性が高い.使用時にはかならずアース(接地)処理をしておいてほしい.
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さびついたベアリングと軸.ベアリングが錆び付いていると外しにくいので,シリコンスプレーを吹いて,しばらく置いてからベアリングを外しにかかる. 専門家はベアリング抜きという工具を用いるが,ベアリングは再利用しな いので,ちょっと荒っぽい方法ではずす.プライヤなどをベアリングの上にかまし,ハンマーで叩いて下方に外す.これも先端の軸を叩いて壊さないように,木 の板などを介するようにしたい.徐々に気をつけて行う.
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無事ベアリングが外れたところ.このあと,錆をサンドペーパーで落とし,シリコンスプレーを吹いておく. 筆者は回転子の部分にアクリル透明ラッカーを吹いて,その溶剤が元の塗料を溶かし,泡の山を作ってしまった.固まったあとでカッターナイフで削る羽目になった.あまり余計なことはしないほうがよい.
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透明ラッカーの泡をカッターナイフで削っているところ. あと軸を布ペーパーで磨くのに指に力を入れすぎて,右手親指の内側に豆を作ってしまった(泣).
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交換するベアリング.ステンレスでモノタロウから購入(500円あまり).予備としてもう1個購入.特殊な形状のものではなくごく一般的なもの.ただしゴムのシールがついているものを選ぶ.
次にこのベアリングを軸に打ち込むためのヤトイ(治具)として,DIYセンターでニップル管(鉄館)というものを購入.軸の径を計って少し余裕のある太さにする.ここでは径16mmくらいでベアリングを打ち込む部分の径に1mmの余裕がある.
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ベアリングを軸のこれから打ち込むところに置き,さきほどのニップル館をかぶせる.これを木槌やハンマーなどでたたいてベアリングを左方に打ち込んでいく.写真でベアリングの左側にちょうどベアリングの幅ほとの軸が見えている部分にベアリングが打ち込まれる. 次に防水処理のための工夫をする.左側がベアリング全体に塗るグリス.左側がこれから作るアルミ薄板による防水板を本体に接着するための金属用接着剤.
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もともと,軸とカバーの隙間がこれくらい開いていた.この隙間にグリスを詰めて,さらに軸の太さぎりぎりの薄い防水板をとりつける. 軸とカバーをつけたところに,ベアリングが控える入り口から,グリスを隙間なく注入する.モーター側の端面には周囲から少しだけへこみがあることがわかる.ベアリングのグリス部分の隙間を覆うため,この部分に次に作る防水板を貼りつけることにする.
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次に薄いアルミ板(0.5mm厚でちょうどモーター軸にぴたりの孔を開けて防水板を作る.中心の穴あけは軸の太さぎりぎりまでリーマーで開ける.さらにその後本体に繋がる3箇所のボルト孔を開ける必要がある. 防水板を金属接着剤で端面に貼り付けて,接着剤が乾くまでボルトで仮止 めしている.接着剤をつけるときは,余分なグリスをきれいに拭き取り,板をアセトン(マニキュア除光液)できれいに拭いて脂分をとることが重要.青い チューブがグリスで,黄色いチューブが接着剤.モーター軸と本体の間の隙間がほとんどなくなっていることに注意.とりあえず分解修理作業1日目はここまで.接着剤が固まるのを1日待つことにする.
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明くる日,早速写真の3本のボルトで水槽を再度モーター本体に組み上げ直し,慎重にボルトを六角レンチで締めていく.水槽は本体のベースにも別のボルトで固定している.詳しくは製作編をごらんください.http://seagull.stars.ne.jp/2019_Rock_Saw/index.html 次にアーバーを装着.ところがここで一旦組み上げたが問題発覚.ベアリ ングの突端にあった黒いリングバネの左右を間違えたために.ダイヤモンドソーの位置が少しモーター側に寄ってしまった.そこで再度アーバーの装着からやり 直し.アーバーのモーター側に15mmの内径のワッシャを入れることでソーの位置を少し手前側にずらして何とかカバーをつけれるようになった.ちょうど内 径15mmのワッシャが手持ちにあって事無きを得た.これなければワッシャを買いに行くか,リングバネの入れ替えのため再度モーターを分解する必要があっ た.
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無事ダイヤモンドソーを回転方向に気をつけて装着してあとはカバーをつけるだけ. アルミのテーブル(水槽のフタ)を装着.ソーの位置も溝の位置と今回はぴたりと合った.
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再度組み上げて,切断機は最初だけスイッチを入れてもうなり音だけで無反応.どうも防水板の孔がぎりぎりでその摩擦で回らなかったみたい.一旦手で砥石を回してから再度スイッチを入れると今度は地力で回った その後,すぐに切断にかかる.快調に切断機は使用できている,ステンレスべアリングの効果がどのような状態か,少し長期で様子をみてみたい.


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