SSHクラブ活動企画 地学部冬合宿の報告 2010年2月9日

1月8日(金)から1月10日(日)まで2泊3日 行き先:つくば方面
地学部ではSSHの支援のもと,冬合宿を敢行しました.内容は
1月8日 茨城県柿岡にある気象庁地磁気観測所訪問
1月9日 霞ヶ浦周辺の下総層群の地層の地質巡検
1月10日 午前:国土地理院「地図と測量の博物館」,産業技術総合研究所「地質博物館」の見学 午後:JAXAの見学
です.いずれも今後の地学部の研究活動の参考になる内容ばかりでともて充実したものでした.

それではまず1日目の気象庁地磁気観測所の訪問見学の報告です.これはここ数年本校地学部で行っている地磁気に関する研究がどのていどのものか専門家の方 に一度聞いてみようという部員の要望から実現しました.なお今回の見学は石川有三所長を初め,気象庁地磁気観測所のスタッフの方々のご協力で実現しまし た.親切に応対していただいた地磁気観測所の職員の方々は次の方々でした(敬称略).

業 務説明:山本哲也 調査課長
付添案内(引率):池田清 調査課主任研究官,石井美樹 調査課主任研究官,吉武由紀 観測課主任
施設見学については
  比較較正室:室松富二男 観測課主任研究官 
  計測室:外谷健 観測課長
 講義
  地磁気観測:大和田毅 観測課主任研究官
  火山観測:大川隆志 技術課主任研究官
上記職員の方以外に懇談に参加していただいた方:清水淳平 技術課技官,今村哲生 調査課技官 

の皆様です.ここにお名前を記して感謝申し上げます.

それでは当日の模様を.

上京する新幹線からの富士山.山頂に雲がかかっていたのが残念.でも雄大な裾野が良く見えました.
上野駅で常磐線の特急「フレッシュひたち」に乗り換え.この列車に大体1時間乗ります.
車中では小型モバイルPCと窓枠に置いた地磁気センサ.車内で地磁気測定を行っているところです.この線 は、地磁気観測所のある柿岡から半径約35kmの所で、直流駆動から交流駆動に切り替わります。地磁気測定はその直流,交流の駆動の違いがどのように車中 の地磁気 にどのように影響するかを調べる目的です.
ほどなく石岡駅に到着.慌てて下りて,乗り換えるバスを探します.結局いつ直流から交流に変わったのかは わからずじまい.データは現在解析中です.
石岡の駅前から今度はバスに乗り換え.バスは田舎の風景の中をひたすら30分近く走ります.
内宿という町でバスを下車.今度はこんな道をひたすらまた歩きます.地磁気観測所は人間の施設などの影響 を嫌うためこんな田舎の中に建てられているそうです.誰かが本校自治会名物行事の「百キロ徒歩」みたいだと言っていました.
地磁気観測所が近づいてくると,あたりの電柱には気象庁や地磁気の文字が目立ちます.このあたりの電気は 地磁気観測所ができるときに率先して引かれたそうです.
20分近く歩いて,ほどなく地磁気観測所の構内へ.ただどこが事務所の入り口かわかりずらくちょっと探し ました.
ここが大正時代に建てられたという洋館風の本部の玄関です.職員の方の出迎えを受けて,まずは地磁気に関 する勉強のために講義を行っていただきます.
所長さんが急用で不在とのことで,山本調査課長さんから,観測所の概要をお話していただきます.わざわざ 我々の訪問のためにパワーポイントの資料を作っていただいたようです.
磁気嵐についてのスライド.かつて太陽活動の激しかったときには1日で地磁気が大きく変動した例があると のことでした.
NASAの報告書がかつて予言した2012年問題はどうなのかという興味ある話.この見学時点ではまだ黒 点は完全復活は遂げてなかったのですが.
さて,会議室を出て構内を横切ります.向こうの建物は断熱のためにわざわざ土を盛ってある という説明だったと思います.
この洋館風の建物は大正13年の建築と教えていただいた.およそ観測所には不釣り合い?(失礼!)な建物 が続きます.これらの建物群を見る だけでもここに見学に来た価値はある.
広大な敷地に点在する現在観測を行っている小屋です.
その奥に地磁気の計測装置を較正する機材の建物がありました.中で較正の様子を実演で見せてもらいます.
外側のジャングルジムのようなヘルムホルツコイルに触れないようにという注意を聞く.職員の方は磁場に 影響を与えないように,時計やベルトなども外して 機器を操作するらしい.説明していただいているのは観測課の室松さんです. 写真中央の紙には各国語で寄りかからないでねという注意が.なぜか一番下に触っちゃだめだっぺ!と茨城弁 があります.
この中央にあるのが偏角と伏角を正確に測る装置です.機械はすべて磁力に影響を与える鉄は使わず製作され ている.砲金などの合金を用いるとのこと.ここをクリックすると説明の動画が出ます 真ん中にアルミの玉のような ものがあって,その中にボビンに巻いたコイルがあって,それを外部からハンドルで回転(1秒間に1回ハンドルを回すと,かなりのスピードでまわり,内部の コイルが地磁気を切って発電される.
外部の架台を動かせて地磁気の伏角方向に平行に置くと,地磁気を切ることがなくなり発電が0になるはずと いう原理.そ のときの回転軸と平行な架台の方向が正確に地磁気のベクトルの方向を向くということで,伏角と偏角を決めることができる.ここをクリックすると説明の動画が出ます. これも説明は室松さんです. 偏角と伏角は顕微 鏡の覗き窓から,指標を見て読み取る.その目盛り盤は副尺に角度の1秒が明瞭に刻まれているが,かつて戦艦大和の測距儀の目盛り盤を刻んだ呉のメーカー製 ということだが,現在ではすでに作ることはできない精度という話を案内の職員の方から聞いて驚く.
中央に見えているのは全磁力を測るプロトン磁力計.また架台の方向は構内の遠くにある指標を窓から望遠鏡 でのぞいて,それにより決定するという.ただ, 構内の指標をさらに,壁の上の方に見える窓を開けて北極星と比較し,正確に決定しているとのこと.
先ほどの枠にヘルムホルツコイルと書かれているのが見える.外に出ると建物の外のあたりに傘を1本置いて も内部の観測値に影響が出ると聞いた.このヘルムホルツコイルについては,こちらのページに 観 測所職員の徳本さん,外谷さんにいただいた説明を書いています.
再び構内を横切って帰るのですが,至るところに観測装置のようなものが置いてあります.
黄昏る地磁気観測所の風景.のどかなよい場所です.
今度は観測のデータを記録している部屋を見せてもらいました.説明は観測課長の外谷さんにしていただきま した.
数多くの計算機や記録装置がところ狭しと置かれています.今は太陽活動が低調ですが,これが活発になると 地磁気の変動も大きくなり,大変忙しくなるそうです.左端が外谷さんです.
さてこのあと今度は観測課の大和田さんに地磁気観測方法の種類や違いについてや目的,心に残る体験などに ついてお 話いただいた. 特に,心に残る体験のお話では,三宅島の火口陥没を観測しに行った翌日に、2000年噴火活動の中でも比 較 的大きな噴火が起こったというところに驚いた。噴火の日が自分の命日になるところだったという話.結構怖い体験をいくつもさ れていて,そこから何か観測魂のようなものを感じとらせていただいた.
一旦外にでて,外に設置してあっ たPMと角度測定器の実演・体験をさせていただい た.途中PMが動作不良を起こし,壊してしまったのではないかと少々焦る場面も.右側で説明していただいているのは調査課の池田さん.後ろで説明されてい るのが大和田さん.地磁気計を覗いているのは観測課の吉武さんです. 余談では,そういった器具を持って外国へ観測に行こうとすると,搭乗受
付の途中で没収されるといったこともある空港もあったらしい.NZかどこかで中の電池を抜かれたり,プロトン磁力計では中に入れてあるケロシン(石油系燃 料)を抜くよ うに言われたこともあるとか.
また,会議室へ戻り技術課の大川さんから火山や人間が地磁気へ与える影響についてお話していただいた.私 達が自然 に与えている影響というものを改めて実感した. 地磁気を測定して噴火の予測を行う基本原理みたいなものを説明していただいた.
簡単な地下のモデルを想定すると地表での観測結果をうまく説明できるという話.このあたりは現在地学部が 進めている鉄道の地磁気への影響の研究でも生かせる話でした.
海流が発電を行い地磁気に影響するという話にも驚かされました.
その後,職員の方に集まっていただいて,私達が今までにやってきた,地磁気に関する3つの研究の発表を聞 いていただいたり,それに対する議論など懇談をしていただいた.今までに考えて いなかったことも含めて,様々なアドバイスをいた だくことができた. 地磁気センサのキャリブレーションの方法や,電車の電 流の流れ方などについても色々と教えていただく.さらにつくばエキスプレスが開業するにあたって,その影響調査みたいなことを結構時間を掛けて行った逸話 などを聞く.雨が降るととくに影響が大きくでるという話だった.漏洩電流が流れやすくなるからか.この写真は地学部研究の紹介の模様.
予定の5時を大幅に過ぎても熱心に職員の方と懇談していただいた.そしてバスの時間が迫り,お礼のあいさ つをして地磁気観測所を後にする.来たときとは違い真っ暗な道を歩きバス停に向かう.人里離れた夜道では,星がきれい に見えていた.バスを待つ少しの時間の間に地磁気を測定.石岡駅行きのバスに乗り駅を目指した. 石岡駅から土浦駅まで電車で移動.食事をした後につくばセ ンター行きバスに乗りホテルを目指した.ホテルまでの道がわかりずらく,玄関に到着したのはほとんど9時頃になった.荷物を持って歩くのでとても疲れた. それでも午後5時を越えても色々と応対いただいた地磁気観測所の皆様の暖かいホスピタリティに一同感謝の念で眠りについた.写真は土浦駅での夕食の様子. みんな腹ぺこで食べる食べる!
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