津波のシミュレーション      27th July 2020,10th August 2020 追記

<はじめに>

 筆者がそれまでの高校地学教員の仕事を一旦棚上げして,たまたま声がかかった大阪府教育センターという研修・研究機関で,教員研 修と教材開 発を仕事にし始めたこ ろ,一番作りたかったのが,この津波のシミュレーションだった.基本方程式とその解説はそれ以前に,当時のたしか,「海洋科学」という雑誌に,阿 部邦昭先 生(日本歯科大学新潟短期大学.)という方が日本語文献として載せておられた(阿部先生はたまたまその当時の教員センターの研究員の方が同じ大学 で知り合 いであっため,その後連絡を取ることができて,拙稿を読んでコメントや改善点などをご教示いただくなとお世話になることになる).
 さて基本方程式は得られた ので,次にこれを差分化して解けばよいとわかっていた.しかし境界条件として与える, 詳細な海域の水深データが必要であった.当時は公開された水深のデジタルデータは少なくとも私の探す範囲には存在しなかった.まだ教育センターに 勤務する 前であったが,仕方なく,水深データの自作を始めた.高校の地学同好会の活動として,等高線地形図から格子点の標高を読み取って,デジタルデータ 化する手 法を生徒と取り組んでいたので,これは結構容易であった.勤務校が変わってから,プロトタイプの奥尻島周辺の水深データを興味を持った生徒と自作 してい た.それを用いて初めて作ったのが下記の報告に載せた,1993年北海道南西沖地震の津波計算のプロトタイプであった.
(下記報告は,さらにこのプロトタイプを若干改良して,水深データを専門家によるものに置き換えて作成したものや仮想水深データによる計算結果も 載せている)

岡本義雄:パーソナルコンピュータによる津波の数値シミュレーション ー奥尻島周辺海域ー,地学教育 52,53-62, 1999 http://www.age.ac/~chigakuk/zasshi/52-2.pdf

 この津波シミュレーションのプロトタイプは当時のNECPC98シリーズのN88BASICで計算をした.大変原始的な計算と画面表示であった が,この津 波の様子を表現できた.さらに計算機シミュレーションの特性を活かして,バーチャルな水深(つまり仮想的な海底モデル)による津波計算も比較とし て載せ た.津波の増幅がいかに海底地形によって左右されるかということをうまく表現できたと思う.
さらにこの津波計算を日本海全域に拡大したものを,その後,中学校の教科書の図として採用していただいた(啓林館の中学校向け理科教科書).

 この津波シミュレーションでは初めて,津波の表示に本格的なCGを採用した.水深の凹凸の様子とその上にある津波の凹凸の様子を,透かして表示 する手法で ある.当時フリーソフトとして公開されていたPOV-Rayというレイトレーシングソフトをこの目的のために使用した.このCG表現の方法は自分 で考えた ものであるが,現在の津波シミュレーションの表現手法と比べても遜色がないと自負している.これについては後述する.

計算手法ほか>

すでに報告した雑誌「地学教育」の記事を参考にしてほしい.ここに計算手法,水深データの入手活用法のあらかたを記載した.

岡本義雄:パー ソナルコンピュータによる津波の数値シミュレーション ー奥尻島周辺海域ー,地学教育 52,53-62, 1999
岡本義雄:パー ソナルコンピュータによる津波の数値シミュレーション ーLinuxを用いた広域格子ー,地学教育 52,177-190, 1999

さらに古い英文学会発表原稿は
http://yossi-okamoto.net/Old_HP/Univ/Tsunami/Simulation.pdf

1999年の地学教育学会の予稿は(ここでは南海地震の津波計算を行っていて,実際の堺での波高と計算波高を比べています)
http://seagull.stars.ne.jp/wave_simulations/Propagation/Linuxを用いた数値シミュレーション.pdf

また大学での授業用にExcelを用いて計算する手法を下記に用意している.これもあわせて参考にしてほしい.
http://yossi-okamoto.net/Univ_Lec/2018_SE/Okamoto_Excel_Tsunami.pdf
これに用いる元ファイル(Excel用)です.
tsunami000.xls

初期のプロトタイプで地図から格子デジタル標高(水深)データを自作する方法は下記の報告(教材用火砕流シミュレーション)に詳細を載せていま す.

岡本義雄:地 学教材としての火砕流シミュレーション,地学教育 51,97-105,1998

<古い計算覚書と動画>

1993年北海道南西沖地震津波計算 日本海全域 伝播図 動画

2011年東北地震津波計算


ほか,計算PCの準備,水深データ作成の詳細などを記した,開発当時の覚書のWebページを下記に記す.
(当時作成のママなので,今この内容を質問されても即座にはおそらく答えられない?)

東 北津波Sim作成備忘録

2004 年スマトラ津波計算備忘録 動 画 タ イ側からの動画

2004 年スマトラ津波 GMT水深データ作成備忘録


<津波3DCG表示> 暫定版(今古いHDDから発掘中です) 


初期はワイヤーフレームなどを用いていたのですが,そのうちPOV-Rayと いうフリーのレイトレーシングソフトを知り,これを用いました.
ただ海底地形を波の波高データに重ねて,水面を透明処理して表すのには苦労しました.当時あったPOV-Rayの参考書をだされていた小室さんと いう方に

POV-Rayではじめるレイトレー シング 【改訂第2版】 Ascii books  小室 日出樹 (著)

直接メールを送って教えていただいた方法です.POV-Rayのコマンドのうち,height fieldというのを使う方法です.
水深と波高の格子データでそれぞれ,z軸つまり,上下方向の高さを白黒濃淡で表示した.pgmファイルという白黒濃淡の画像を作ります(下図参 照,下図は海底地形を示す).これをベースに色や屈折率,散乱などの各パラメータ処理をして3次元のCG処理をします.
詳しくはまたいずれ公開します(というか当時の資料が行方不明で備忘録をメモっていないのです).
これで素晴らしく美しいCG画像が作れます.波高データは時間とともに変化しますから,画像を時間順にどんどん作って行って,最後にそれを動画に まとめるわけです.
今であれば様々な動画作成ソフトがありますが,当時私が使っていたのは,画像ファイル(ppm形式)を動画ファイル(.fli形式)にまとめる
ppm2fliというUNIXベースのコマンドでした.今なら信じられないですが,当時はこういった一つ一つの処理が,最初から試行の連続でし た.やがて 専門家も同様の手法で透明な波高処理をするようになったようですが,私の手法は結構時代を先んじていたと自負しています.

下記にスマトラ津波を描く際に用いた,海底地形のpgmファイルを示します(pgmファイルは直接ブラウザで再生できないのでpngファイルに換 えてあります).何となく海底のイメージがわくと思います.



なお,このあたりの処理の詳細について,当時の備忘録で唯一見つけたのが下記です.

okushiri.html

tsunami_sim_reminder.html

これをみるとPOV-Rayで描く画像はtga形式という画像でこれをppmに直しさらに動画になおしているようです.

元のレンダリングに用いる水深や波高のpgmファイルを作成するソフトはc言語で書いていました.
次のプログラムです.

bt-pgm.c

このpgm画像を3次元レンダリングに用いる手法はその後,地震波動伝播などの画像処理にも用いています.とても便利な手法で同様のことを試され る方にはおすすめです.

これらのことで質問は遠慮なく yossi.okamoto あっとまーく gmail.com まで.

Copyright (c) Yoshio Okamoto 2020, all rights reserved.